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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)207号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人下光軍二の上告理由第一点について。

記録によれば本件訴状には請求の趣旨として「被告等(上告人両名及び村上好一郎)は連帯して原告(被上告人)に対し金一三万円に昭和二三年五月一日より判決執行済に至る迄年六分の割合による損害金を支払うべし、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求める」とある。然し、第一審における第一回口頭弁論期日(昭和二三年九月二二日)において、被上告人(原告)代理人は請求の趣旨として「被告清水芳彦は原告に対し金十三万円並に之に対する昭和二三年五月一日以降本件判決執行済に至る迄年六分の割合による損害金を支払うこと、被告青木辰雄は原告に対し金六五、〇〇〇円並に之に対する昭和二三年五月一日以降本件判決執行済に至る迄年六分の割合による損害金を支払うこと、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決及担保を条件とする仮執行の宣言を求める」と陳述し且つ訴状に基づいて請求原因を陳述しているから、右は単に請求の趣旨を減縮したものであり、即ち上告人青木に対しては訴の一部の取下に過ぎないのであり、所論の如く民訴二三二条第二項に所謂請求の変更に該らない。しかも右取下は上告人より本案について何等の申述も準備書面の提出もない最初の口頭弁論においてなされたものであるから、その取下については相手方たる上告人の同意を必要としないし、書面によりてすることをも必要としない(民訴二三六条)。論旨は何等理由がない。

同第二点について。

記録によれば上告人等は第一審において本案の弁論をなさず又答弁書その他準備書面をも提出しなかつたので、被上告人主張の事実を自白したものとして判決を受けた。昭和二四年六月三〇日の原審における口頭弁論期日に控訴(上告)代理人は不出頭であつたので、原審は控訴状記載の事項を陳述したものと看做して、相手方に弁論を命じたのであるが、控訴状(記録五八丁)には「原判決はこれを破棄する、被控訴人の請求はこれを棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との裁判を求める旨の控訴の趣旨と第一審判決の表示との外には単に「控訴人は昭和二四年二月二四日右判決の送達を受けたが全部不服であるから、ここに控訴する次第である」との記載があるに過ぎない。然し右の程度の記載を以てしては請求の趣旨を否認したと解することは出来るが、請求原因たる事実に対する認否を明らかにしているものとは認め得ないから、被控訴人主張の請求原因たる事実を明らかに争はないものとして、原審が民訴一四〇条を適用して判決したのは正当であつて何等所論の如き違法はない。

同第三点について。

主たる債務者と連帯保証人とを共同被告として訴が提起された場合でも、主債務者と保証人との間に権利関係が合一にのみ確定しなければ訴の目的が達せられないものではないから、所謂必要的共同訴訟には当らない。従つて、第一審において共同被告の一人である村上について弁論を分離して同被告に対してのみ判決を言渡したことは何等違法ではなく、原審がこの分離を問題としないで裁判したことは正当であり、論旨は理由がない。

同第四点について。

本件記録には上告人等に対する第一審判決の送達に関する書類の添付はないが、右の判決が昭和二四年二月二四日に上告人等に郵送せられたことは、同人等の自認するところである。従つて原審が同年三月五日になされた控訴を適法と認めて判決したのは正当と謂はなければならない。上告人等は第一審判決が書留郵便に付して発送され、その発送の時が明らかでない以上原審は本件控訴の適否の判断をなし得ないのに(民訴一七三条、一七〇条第二項、三六六条参照)控訴を受理して判決したのは違法であると主張するのであるがこれは上告人等の控訴を適法とした原審の措置を攻撃し控訴を不適法として却下すべきであると言ふに等しく、上告適法の理由とならない。

同第五点について。

第一審が村上に対して所論の如き判決をなしたことは記録上明らかであるが、この判決は、上告人等に対しその主張の如き第一審判決をする妨げとならないことは勿論であり、第一審判決を認容した原判決には何等理由不備はない。論旨は採用し得ない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔)

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